しずおか文化のページ伊豆文学フェスティバル入賞作品のあらすじ

令和5年1月16日更新

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第26回伊豆文学賞 入賞作品あらすじ(作者自身による作品紹介)


(1)小説・随筆・紀行文部門

  最優秀賞  「水色の風」(小説)
 「私」は聴覚障碍のある父母から生まれた。父母はハンディがありながら、造園工事の仕事を誠実にこなし、私を育てることに生きがいを感じていた。私も親の愛に応えようと真剣に勉強を続け、弁護士になった。ただ、父も母も私を造園の仕事に就かせたかったらしく、喜ばなかった。私も造園の仕事には魅力を感じ続け、時々父の作業を手伝う。物を丹念に作り上げていく手仕事の喜びは捨てがたかった。父母は共に文学が好きで、小説を書き、語り合い、相互の愛情は深かった。父と母は信頼が篤く、幸せに暮らしていく。
 私も妻を迎え、二人の子持ちになる。六人の穏やかな家族はときどき、浜名湖畔でなめらかな風を浴び、煌めく湖面を眺めることで幸せを噛みしめる。だが、父は聴力の無いことが原因で交通事故に遭い、とつぜん亡くなる。母の嘆きは深かったが、やがて父が幸せの只中で死んでいったことと思い直し、安らぎを得る。私は湖畔で父母と過ごした水色の時間を想い、感謝して生きていく。
 
優秀賞
「即日帰郷」(小説)
 昭和十四年六月、鉄道省東京鉄道局に勤務する電信技士の植松範行は、当時国民病とも言われた肺結核に罹患するが、海に近い静岡県原町に転地療養し、母の手厚い看護を受けて五ヶ月あまりで職場復帰する。
 翌年五月の徴兵検査で合格となり、結核完治のお墨付きをもらったと喜ぶ範行に、母は兵隊に行かせるためにお前の病気を治したのではないと怒る。
 日中戦争勃発から三年余り、範行にも入隊命令が届き、昭和十六年一月、盛大な見送りを受け出征、大阪の陸軍部隊で入隊検査を受ける。しかし結核の痕跡が見つかり不合格となる。付添いの父と兄に伴われ御殿場線下土狩駅に戻ってくる。ある朝、仏壇の前でお経をお経を唱える母が吐き出すように言った言葉が範行の耳に入る。「もうこれ以上、息子をとられてたまるか」
範行は東京へ戻ることをやめ、地元の軍需工場に勤務して終戦を迎える。
 
佳 作
「遠い夏」(小説)
 僕は母の骨を撒きに行くところだった。これから南伊豆の海に母の骨を撒く・・・・・。
 一年前、離婚した母は小学五年生の僕と二人で熱海のアパートで暮らすようになるが、次第に鬱状態になり、雪の降りつもる天城山で自殺を図る。一命は取りとめたものの体が重篤な病に冒されていて熱海から生まれ故郷の南伊豆へ転居する。南伊豆には母の父、つまり僕の祖父が一人で暮らしている。母は病の体を抱えながらも南伊豆の海を眺めたり、祖父や僕との楽しい時間を過ごす。
 しかし母の体は重体となり、とうとう下田の病院に入院し、そのまま帰らぬ人となる。母は最後に僕に言った。「私が死んだら私の骨を南伊豆の海に撒いて欲しい・・・・・」
 僕は母の骨を海に撒きに行く。僕は母の骨の一欠片を持つと海に向かって思いきり投げた。母の骨は一瞬、太陽の光を受けて輝き、すぐに強い風に乗って白い蝶のようにどこまでも舞って行った。
 
佳 作
「ドレープ」(小説)
 加賀はある日突然、三矢からの電話を受けた。用件は会って話したいとのことだったので、指定された浜松のビルへ行った。
 加賀は十五歳で生まれ故郷の掛川から浜松のテーラーに仕立て職人を目指し就職した。父が早く逝き母と二人だったので、テーラーの叔父、孝の紹介だった。その店で、三十年前に社長就任の覚悟のため、フルオーダースーツを仕立てたのが三矢で、加賀が担当した。
 行ってみると、三矢は今までの会社を息子に任せ、新たに木材加工の会社を立ち上げる覚悟のために三十年前のように加賀にスーツを仕立ててくれと加賀に再びフルオーダースーツの注文をした。加賀は、三矢のスーツを最後にテーラーの仕事を退いたため、自分はもうスーツを仕立てる技術を失っていると思っていたが、当時自分が三矢に勧めたドレープが浮かぶ生地だけでも手配しようとする。しかし、三矢は加賀自身にもう一度テーラーとしてスーツを仕立てて欲しいと懇願する。加賀は迷うが・・・。

(2)掌篇部門

  最優秀賞  「星」
 2018年、夫婦で伊豆北川で短い夏休みを過ごした際の出来事を作品にしました。前日からの台風接近、踊り子号の運休、訃報、午前3時……いくつかのトラブルと偶然の先には、この世のものとは思えない星との出逢いがありました。星が語りかけてきたように思え、それが何なのか、今も時折考え続けています。
 
優秀賞
「朝霧高原のおちょぼ口」
 15歳の春三月、中学校を卒業すると新聞販売店に就職した少年は、地域に支えられ、時には地域を支える活動に参加しながら、60年間ほど懸命に生きてきた。その少年の命をつないでくれたのは、母のおちょぼ口である。
 母は厳しい開墾地の生活環境の中で、少年が幼かった頃から農作業の合間を縫って鶏小屋に連れてゆき、生みたての生卵の先端に小さな穴を開けると口をすぼめて白身を少しすすり、残った白身と黄身を飲ませてくれた。
 
優秀賞
「余韻」
 転校生の芽衣は、林間学校で訪れた伊豆でわさび漬けを試食したことをきっかけに、クラスメイトの真乃と話すことになる。
 真乃は普段は目立たない生徒で、時々変な嘘をつくらしいという噂だけ芽衣は聞いていたが、一緒にわさび田を歩きながら話すうちに距離が縮まり、真乃が変な嘘をつく訳についてとある可能性に思い至るのだった。
 
優秀賞
「花の色」
 下田でよく見かける花の一つに「アメリカジャスミン」というものがあります。開花して紫から白へと色が変わるこの花のように、変わっていく人や町のすがたを、それを取り巻く伊豆の風物とともに描きました。
 伊豆という土地でも、文学そのものでも良いですが、この作品を読んだ方が何かに興味を持つきっかけになれば幸いです。
 
優秀賞
「手引頭のブナ」
 天城の深山には、ブナの巨木が多い。ミキの太さと枝張りで最大のブナは、手引頭にある。その荘厳なたたずまいに圧倒される。神秘的ですらある。
 心に傷を抱えた女子中学生が、父親に連れられてこの巨大ブナと対面する。そこで彼女が得たものとは・・・。
 
優秀賞
「わさび」
 父に対する鬱屈した色々な感情が山葵沢の美しい光景に溶け込むことで浄化されていく様子を描写した掌編作品。
 主人公の私は気づくと山葵沢で横になっていた。山葵たちに囲まれ、自分が徐々に山葵になっていくのを感じながら、父と山葵沢に対する複雑な感情を思い返していた。
 
特別奨励賞
「フラッシュバック・サマー」
 高校生の主人公が中学時代よく利用した文化センターを見て当時を思い出す話。 「いっちゃん」という友人との会話を主とした回想でストーリーが進んでいく。いっちゃんとの何気ないやり取りの中、果たされることの無かった約束を思い出したところで現在に戻る。主人公は 約束を守ることができなかった悔しさや苦しさに、堪えきれず涙を流した。



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