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最優秀賞 |
「おばあちゃんのおでん」 |
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施設で育ち、家族というものを知らない私が学生時代に静岡へヒッチハイクをし、そこで出会ったおばあちゃんとお孫さんに家族愛を教わるという作品です。やんちゃなお孫さんと厳しいながらも愛のあるおばあちゃん。自分にまるでお母さんと弟ができたような体験はその後の私の人生に大きく影響を与えました。たとえ家族に恵まれなくても、家族のような存在がいて、食卓を囲める幸せは、何ものにも変えがたいものだと強く主張する作品です。
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優秀賞 |
「初めての寺で」 |
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山裾に広がる大きな寺の参道は、進むごとに高さを増し、木々の緑は色を濃くし、量感をもって頭上を覆います。歴史を背負ってたたずむ堂宇は、私を非日常へいざない、内省的にします。日ごろ見慣れた花さえも、不思議な雰囲気を醸します。静かな境内で、心に浮かぶあれこれを、ロードムービー風にまとめてみました。
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優秀賞 |
「青い夢が叶うころ」 |
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かつて、日本の街は美しい藍の色に染められていた。イギリスの科学教師・アトキンソンが「ジャパン・ブルー」と感嘆を漏らし、焼津の海を愛した小泉八雲も「神秘の青に満ちた国」と絶賛した藍の国・日本。明治以前は駿河も藍を始め、機織業が盛んだった。静岡には、余り知られていない誇り高い伝統や美しい文化がたくさんある。本作を通し、一人でも多くの人に静岡の魅力を知っていただきたい。
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優秀賞 |
「五の三の君」 |
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今年の正月は家族で三島、熱海に旅に行った。メンバーは夫・私・娘三人の五名だ。三島大社へ初詣に行き、夜は熱海で新鮮な魚介料理や金目鯛の煮付けを食し地酒やビールで乾杯した。その時、静岡県の名所である三島か熱海を舞台に文を書いてみたいと思った。作品の二人は若くピュアで幼い頃の淡い思いを胸に秘めている。同級生という設定なので、女の子の方がしっかり者で男の子の方は奥手で受け身に記した。五年三組生きもの係だった二人。十五年経って社会人となり食事を共にした。結末は書いていないが、男の子が女の子の昔好きだったキャラクターのTシャツをわざわざ着てきて帰り去り際に、覚えていることを伝えた勇気がこの物語のクライマックスとした。コロナ禍で若い人達の出会いやデートもままならない今だがいつかドキドキするような恋愛をしてほしいという願いを込めた。コロナが終息したらきっとこの物語もまた動き出すと思う。
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優秀賞 |
「ハンドメイドカトラリー」 |
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会社近くの公園で、伊豆の友人から求めたカトラリーを使い、弁当を食べているところを、母親に付き添われたダウン症の女性に見られる。母親から唐突にカトラリーの使用感を聞かれ、率直に感想を話すと、母娘は満足して去った。これはその女性の作なのか?
私は女性と同じダウン症児で早逝した従弟に思いを馳せた。最期迄通じ合わなかった彼との交流。だが母娘とのやり取りで、初めて通じあえる何かを見出した気持がした。
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優秀賞 |
「火の見バス停と飯田屋酒店」 |
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静岡県磐田市の北部に、二俣駅に向う路線の火の見バス停があります。傍らにある飯田屋酒店と共に、その風景は五十年が過ぎても少しも変わらず、そこに立てばいつでも、毎日おつかいに行っていた幼い頃の自分と、そこで出会い、別れた人々に会えるような気がします。そして今年、同じ故郷を持つ母を亡くし、その風景は懐かしさに加えて、私の中で違う彩(いろどり)を持つものとなりました。
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