|
最優秀賞 |
「私たちの忘れもの」 |
|
|
|
|
中学一年生の夏休み、私は浜松市天竜区春野町を訪れた。青々とした森の中にぽつりぽつりと民家が見える春野町の景色は、孤独や寂しさを感じさせるはずだが、帰り道に私が感じたのは人の温かさと不思議な充実感だった。一見、人と人とが共にくらしているように見える市街地では感じられない温かさが、なぜ春野町にはあるのだろう。春野町の景色やそこに住む方々との交流を通じて私が受け取った「メッセージ」としてつづった。
|
|
優秀賞 |
「沼津の伯母さん」 |
|
|
|
|
「お寺さんに寄って私の茶断ち、蜜柑断ちを解いてくれるようオッサマに頼んで欲しいのよ」――病床の伯母の思いがけない頼み事。神仏に祈る以外どうしようもない土壇場で、好きな何かを断つのが伯母の流儀だった。
その伯母の葬儀。お線香と菊の香に混じって甘酸っぱい香りが微かに立った。母(九人兄妹の最後の生き残り)が庭でもいだ蜜柑を一つ、さりげなく服の袂から出して入れたのだった。
|
|
優秀賞 |
「田宮虎彦の富士」 |
|
|
|
|
作品には天涯孤独の杉原という男と波江という女が描かれる。作家は波江の身の上は語っているが、杉原のことは何も言わない。ただ、杉原は富士を見にゆくことだけが、まるで人生そのものであったかのようだ。ことさらなストーリーはない。ひたすらに杉原のその見えない心をのみ作者は描いている。私もいつのころからか、富士を見るとはこうしたことなのかも知れない、とおもうようになった。富士の美しさに近づくために。
|
|
優秀賞 |
「駿河湾からの激励」 |
|
|
|
|
高校一年の時の私は親との喧嘩やテスト勉強などの悩みを抱えていました。そんな私を姉は田子の浦港へと連れ出しました。田子の浦港でとれたしらすを食べながら、雄大な駿河湾を眺めたときの感動は忘れられません。駿河湾から吹く少し強めの風は私の背中を押してくれているかのようでした。駿河湾の雄大さ、田子の浦港でとれる新鮮な海の幸は、私の大好きな静岡県の魅力の一つです。私が駿河湾から受けた激励を他の人にも感じてほしいと思います。
|
|
優秀賞 |
「志戸呂の声 –綺麗寂び-」 |
|
|
|
|
遠州七
窯
、志戸呂焼は家康公から御朱印状を授かり、将軍家御用窯となって名を馳せた。
私は幼い頃から祖父と志戸呂焼を作陶した。
祖父は遠州流の茶道家だ。茶席を飾る絶滅危惧種の茶花も、世界農業遺産認定の茶草場農法が遂行される志戸呂の茶園では見られる。
遠州流茶道の真髄は綺麗寂び。祖父は言った。
「志戸呂焼は素朴だが、確かな存在感を放つ。志戸呂焼の如く謙虚さを忘れず、芯の強い心映えの美しい人になれ。目指すは綺麗寂びだ」
|
|
優秀賞 |
「佐鳴湖の思い出」 |
|
|
|
|
「佐鳴湖」は古くから浜松の西に位置する小さな湖である。近隣の人々にとって憩いの場であるこの湖は、私にとっても幼い頃から楽しい思い出を多く残す所である。また湖から広がる山や田畑、その中を流れる川は子供のまたとない遊び場であった。四季おりおりの景色の中で子供ながらに思い切り体を動かし心を弾ませ、一生懸命に自然に溶け込むかのように躍動する。かつての風景を思い起こすと懐しさで不覚にも目の前が曇ってしまう。
|