しずおか文化のページ伊豆文学フェスティバル入賞作品のあらすじ

平成21年1月20日 更新

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入賞作品のあらすじ


入賞作品のあらすじ(作者自身による作品紹介)
  最優秀賞 
「いなさ参ろう」(小説)
 「いなさ参ろう」とは、いなさの嵐の夜、必死で入港する湊(みなと)を求めている船をかがり火を焚いておびき寄せ、難破させて積荷を掠め取る、昔、南伊豆の海岸でみられた悪習のことである。伊豆下田に黒船が入り開港場となった時代を背景に、韮山代官所の密命で「いなさ参ろう」の探索に入った男と、南伊豆子浦湊の遊女屋の女の因縁が次第に事件の核心に近づいていく。おみつは床の中で、客の男にいう。「おめえが夕べいった、いなさ参ろう、のことだけどさあ。わっちはどこかで聞いたことがあるような気がするのさ」。男はがばとはね起き「どこでだ」と訊く。「それがさっぱり思い出せないのさ。生まれ在所だったような気もするし、この湊だったような気もするし」。この一言で、男は貧村の海賊団の中へ入っていくことになった。幕末の伊豆の世相の中で頼りない男と女の恋は思わぬ結末となった。
 
優秀賞
「そこはいつも青空」(小説)
 人も殺さず、自殺もしない「フツーのオタク」のローカルな青春。翔平、17歳。富士山嶺の雪解け水が湧き出る清水町在住。趣味、美少女フィギュアを作ること。将来の夢、フィギュア原型師。親や通っていた進学校の教師は、国立大へ行ってサラリーマンになれと言う。未来に希望を失いかけて不登校になり、深夜コンビニでバイトする以外、家でひたすらフィギュアを作る日々が続く。
 そんなある日、翔平は、美しい湧水池のある柿田川公園で、一人の女の子と出会う。美帆、19歳。もう一ヶ月するとハタチ。趣味、ゴスロリの扮装。醜形恐怖症で通院加療中。薬物過剰摂取で倒れたり、危なっかしいことこの上ない。清らかな水の湧く町で、お互いの孤独な心が触れ合うが、美帆は翔平に黙って、突然東京へ帰ってしまう。翔平は復学を決意すると同時に、幕張で開催される大規模な祭典への出展を目指し、彼女の姿を模したフィギュアの制作に挑戦する。作品を通じて、美帆ときっと再会できることを信じながら。
 ぼら
「鯔と子供ら」(随筆)
 鯔は、村にとって特別な魚であった。春と秋に漁が行われた。草木の芽ぐむ時期から始まる春の漁は、青山の鯔、草木が枯れる頃から始まる秋のそれは、枯れ山の鯔と言われた。
 鯔は南の海で生まれ、黒潮に乗って日本の沿岸にやってくる。そして川や湾などで育ち、卵を持つようになると南の海に帰って産卵する。春と秋、鯔の群れは、村の前の溶岩台地の中の入江を遊びながら移動してきた。
 鯔の漁は、村をあげて行われた。子供たちも参加し、分け前に預かった。鯔が来たことを知らせるホラ貝の音を聞くと、大人も子供も心がおどった。
戦後しばらくたってから、比島に行った次兄の白木の箱が届いた。当時はまだ土葬が行われていた。隣組の人が二人一組になって墓穴を掘りに行った。葬式の前日、私はその人たちにお茶を届けるように言われた。墓に着くと掘られた穴の上にみずみずしい赤土が積み上げられていた。穴の中の人が異様なものをその土の上にそっと置いた。思いもよらない母との出会いであった。 
 
佳 作
        びわ
「白い枇杷」(小説)
 人づき合いを器用にできず、思わぬ傷を負いがちなイラストレーターの「わたし」は、悩みから逃げるように東京を離れ、土肥を訪れた。白枇杷の木が繁る宿の裏山で写生をしていたところ、お山番と呼ばれる風変わりな老婆に出会う。宿泊中の「白枇杷荘」では先ごろ女将さんが亡くなり、アルバイトを募集中と聞き、住みこみで働くことにした。土肥の自然に抱かれながら、毎日、客室の掃除を繰り返し、裏山で老婆と問答し、宿の主人や息子と交流するうち、わたしは生き方を見つめ直し、忘れかけていた大切なことを思い出す。実は、地元の老婆だと思っていたお山番は、意外な相手だった・・・・・・。物事の見方の多様性、想像力の必要性、個性を尊重し合うことの美しさを、静かに自己を再生していくわたしの姿を通して描く。

「トンネルを抜けて」(紀行文)
 私は社会人一年生のゴールデンウィークに伊豆の旅に出かける。十代のときに父親の大学同窓による中国語訳で「伊豆の踊子」を読んでからずっと伊豆を訪ねてみたかったが、来日後十数年に及ぶ学生生活の中で旅行らしい旅行をする余裕もなく、伊豆は長い間幻影のままだった。ようやく教職に就くが、社会人のアイデンティティが形成されないまま学生のアイデンティティが崩れていっている気がして、しばし日常生活から身を引き自分を見つめなおすべく、東京を発って伊豆の旅に出る。
 しかし初日はイメージしていた幻の伊豆のかけらも見つからない。不安や苦悩をそのまま伊豆まで持ってきたようだ。二日目は湯本館を見学し、旅館の方とお話ししたり、天城屋商店のおばあさんからお話を伺ったりして、気持ちが次第に落ち着いていく。夜はホテルの温泉に入る。初めて温泉の良さが分かり、伊豆の山河に溶け込んだ思いがする。三日目はさらに福田家と旧天城トンネルを訪ね、思いがけないものや不思議な人たちと出会う。夕方には調和された気持ちで東京への帰途を辿る。



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